記者コラム 「多事奏論」 くらし編集部記者・長沢美津子
和菓子やケーキに「あまり甘くない」と言えば、いまやほめ言葉なのに、果物だとそうはならない。
秋の売り場に競うように並ぶリンゴ、イチジク、ブドウ。糖度15、17、20……。品種改良や栽培法が進化し、産地は数値を上書きした新顔を送り出す。手を伸ばせば菓子もジュースもある消費者は、甘みを欲するというより、驚くような味覚の体験を待っているかに見える。
糖度12度が「これは甘い果物だ」と人が評価する目安だという。だいたい同じになるよう、砂糖を水に溶いてなめてみた。ティーカップに砂糖を大さじ山盛り1杯入れた見当で、十分甘い。
最近は酸味を敬遠すると聞いたのを頭に置いて、薬局で買ったクエン酸を少量ずつ加えていく。思わず「えっ」と声が出たくらい、さわやかな味に変わった。このさっぱり感……想像で香りを足すと、二十世紀ナシではないか。
果物産地を歩く企画で鳥取のナシを取材し、湯梨浜町の東郷地区を訪ねた。100年を超える二十世紀の栽培地で、大規模な選果場も持っている。
シャリシャリと酸味のある青…